制作で大切にしていること

花祭窯・藤吉憲典の磁器制作の特長

Artisan Artist(アルティザン アーティスト)

  • Artisan=特に工芸における熟練した職人
  • Artist=アーティスト、芸術家

イタリアで作品を見ていただく機会があった折に、現地の方々にかけられた言葉です。卓越した技芸と美術的感性の両輪で「ものづくり」をする作家に贈られる敬称だと、通訳の方が教えてくださいました。まさに磁器作家として自分の目指しているところなので、嬉しくなるとともに、気持ちが引き締まりました。

花祭窯の肥前磁器(ひぜんじき)

「肥前磁器」は北部九州の肥前地域で培われた文化と技術によるやきものの総称です。佐賀の有田焼・伊万里焼などと呼ばれるものが代表的です。江戸時代1600年代のはじめから、400年以上の歴史があります。

花祭窯では、磁器作家・藤吉憲典がすべて一人でつくっています。一般的には、磁器制作は工程が細かく分かれ、それぞれ専門の職人によって作られる「分業体制」が敷かれています。花祭窯では、分業に依らず作家一人の手でつくりあげることで「全体としての調和した美しさ・用途美」を実現しています。

食器は古伊万里、特に初期~中期伊万里の雰囲気を理想とし、佐賀県九州陶磁文化館「柴田夫妻コレクション」を師としています。伝統とは革新の積み重ねですが、歴史や基本を大切にしてこそ新しい文化も生まれると考えます。先人の残した美しい形、基本の絵柄を継承すべき伝統とし、時代に流されない誇るべき肥前陶磁の文化を形にして参ります。

現代の食卓で使いたい器、美意識の高い料理人さんに喜ばれる器を提案します。無機質でない温かみのある白磁、心が安らぐ染付の深い青、空間に華やぎをもたらす赤絵、持ちやすく、手にしっくりなじむ丁寧な作り。古典文様に加え、身近な自然を描いた季節感のある独自の文様。さまざまな由来や願いの込められた古典文様は、その意味や背景を理解して描くことにより、命が吹き込まれます。

「手でつくるからこそできる仕事」をお届けします。

原材料などについて

陶土(磁器土)

磁器の生地を作る磁器土は、熊本県の「天草陶土」を使用しています。佐賀県嬉野市にある、120年以上有田焼を支えている陶土やさんにお世話になっています。磁器土づくりのプロと相談をしながら「より理想的な雰囲気」が出せるよう試験を繰り返しています。

精製度合いにより、土っぽいものから真っ白いものまで 何種類もに分けられます。現在はそのなかで主に3種類を、デザインに応じ使い分けています。ひとつは やや鉄分を多めに含んだもの。グレーがかった色に仕上がり、ときどき鉄粉の色が表面に出てくることもあります。真っ白ピカピカではないので落ち着きがあり、食卓で土ものや漆器と組み合わせてもよく馴染みます。

呉須(ごす)と釉薬(ゆうやく)

呉須(ごす)は染付の青を出す絵具です。釉薬(ゆうやく)は、仕上げにかけて生地を覆うガラス質の層。陶土と呉須の相性、呉須と釉薬の相性、 焼成方法によっても発色が変わってくるのが陶芸の面白さです。

呉須も、釉薬も、赤絵の具も、佐賀県有田で歴史ある専門業者さんから仕入れています。材料のプロがつくったもののなかから、選び、組合せを工夫していくなかで、自分のイメージする雰囲気を、独自に出していくことができると考えています。

鉄分のやや多い「唐呉須(とうごす)」(合成唐呉須) と呼ばれるものを使用しています。釉薬は「柞灰釉(ゆすばいゆう)」という、焼成の加減により変化しやすい釉薬を使用しています。柞灰釉と呉須と の相性で、初期伊万里のような雰囲気・色味を 出すことができます。ときどき「焦げ」や「にじみ」が出るのも味わい深いものです。

※焦げ:絵付けのときに染付の絵具である呉須が多めに溜まった部分でおこります。焼成の際、釉薬と呉須が反応して染付の藍色を発色しますが、呉須の溜まった部分が 釉薬を吸収したりはじいたりして絵具部分が表に出ると、直接火があたり焦げて黒っぽくなったり、表面にピンホール状の穴があいたようになることがあります。

※にじみ:釉薬をかける作業の際、やや多めに釉薬がかかってしまった部分でおこる現象です。焼成の際、釉薬は生地に定着してガラス質になり美しい呉須の藍色を実現しますが、多めにかかっていると、その分溶けて流れ、絵がにじんだ感じになります。

赤絵の具

有田の赤絵(上絵)を江戸時代から支えてきている絵具屋さんの和絵具を使っています。常に絵具の研究開発・製造をなさっている絵具屋さんと相談しながら、ずっと使い続けている基本の伝統的な色だけでなく、新しい色を試験したりもしています。

焼成方法

本窯は最高約1260~1265℃の高温で24~25時間かけて「弱還元焼成」でしっかり焼成しています。弱還元焼成は呉須と釉薬の反応具合による「焦げ」や「にじみ」の原因となるひとつですが、しっかり焼くことで発色に深みが出るうえ、丈夫で硬質に焼き上がります。

肥前磁器は絵付も大きな価値なので、絵が美しい発色で仕上がるよう、炎のコントロールが可能な窯を使用しています。佐賀時代はガス窯を使用していましたが、津屋崎への移転に伴い電気窯へと変更しています。電気窯は、温度と時間を設定して自動焼成する仕組みになっていますが、実際には外の気候や、窯のなかの積み具合により温度の上がり具合や窯内の気圧が異なってくるので、30分~1時間おきに窯内部の具合を確認・記録し、温度・気圧を調整しながら焚いています。